遺伝子の種類ってどんなもの?
相手の男性とのあいだに子どもができた場合、その子がHLAの型を重複して持ってしまう。それが女性にとって一番避けなければならない事態です。
重複して持つというのは、たとえばHLAの遺伝子のうちAについて、A1とA1というように同じ型を持つこと(ここで言うA1とかは、仮の話です。)もし、Aについて女性が、A1とA2を持っていたとする。相手の男性の場合は、A3とA4だったとする。
この場合、できた子は決して同じカードを持つことはありません。ありうるのは、A1とA3、A1とA4、A2とA3、A2とA4、の4種類のケース。ところが、仮に女性がA1とA2で男性がA1とA3だったとする。すると子はときに、A1とA1、とカードを重複して持つことがありますが、これは避けたいのです。
そんなわけで女性は、自分の持っているHLAの型とは違う型を持つ男性を操したいということになります。では、どうやったら探すことができるのか。
実は……それこそが、匂い。
ヴェーデキントらの研究では、女性は自分のHLAの型のラインナップとは、なるべく違う型のラインナップを持った相手の匂いをいい匂いと感してしまう。そうすることで、しかるべき相手を見つけているというのです。
こんなふうに、HLAの型を探る場合の手がかりとなる匂いのよしあしとは、自分と相手とではどうかという問題で、絶対的にいい匂い、悪い匂いはない。相対的なものだということになります。
遺伝子のさまざまな型
同じ男性の匂いであっても、ある女性にとってはHLAの型が一致しないので、いい匂いと感じられるのに、別の女性にとってはHLAの型が一致していて、いい匂いには感じられないという場合も大いにあるのです。
私は思うのですが、ときどき、「何であんないい女が、あんな冴えない男にくっついているんだろう」と理解に苦しむ組み合わせのカップルがいますよね。
彼らは、実のところHLAの型という点ではとても相性がいいのではないのか。
彼女は彼にぞっこんなのではないかと思うのです(この場合、型があわないことが相性がいい、相性が合うということになり、何とも皮肉な現象が起きています)
HLAの型については、調べれば調べるほど新しい型が見つかります。特に、ほとんど誰も持っていないような稀な型をある男が持っているとする。それは何にも優る宝だと言えます。
それは、稀であるがゆえに、ほとんどの女性は持っていない。よってどの女性にとっても型が一致せず、相手として大歓迎される。
しかもそれは、病原体と戦うための切り札としても特殊であるために、切り札としての価値がとても高いというわけなのです。
そしてこの研究でもピルの問題があって、なんと、女性がピルを使用していると、HLAの型が一致する相手の匂いをよいと感じてしまうという、とんでもない撹乱の作用があることがわかりました。
ピルには避妊の他に、卵巣ガンや子宮体ガンを防ぐ効果もありますが、男性選びの勘を鈍らせるということを知っておきましょう。
動物行動学エッセイスト。
1956年生まれ。1979年京都大学理学部卒業後、同大学院にすすみ、博士課程をへて著述業に。
1991年に出版された『そんなバカな!-遺伝子と神について-』は、ベストセラーとなり、第8回講談社出版文化賞「科学出版賞」を受賞。