平均寿命が短い昔は、結婚も急いでいた!
厚生労働省の発表によると、2011(平成23)年の平均初婚年齢は、夫30.7歳、妻29.0歳。今から約1000年前、平安時代ごろの初婚年齢は男女ともに14~15歳程度だったことを考えると、最初の結婚がこの1000年間で15年も遅くなったという結果が出ています。ただし平安時代の平均寿命は、男女ともに30歳前後で、初婚年齢が低めでも、当時では何もおかしいことはないのですね。
この「十代半ばに男女ともに結婚するのが普通」という常識は、「結婚=大人としての人生のはじまり」という考えをベースにしています。男女ともに第二次性徴が身体に現れたら即座に、親が決めた相手と結婚していたのですね。親としては、病気や戦乱の中で自分の子どもがいつ死んでしまうかわからない時代だったので、血筋をつないでいくためには一日も早く自分の子どもを結婚させ、子孫を授かるように導かねば!…なんて考えていたのだと思います。
上流階級の場合は、子ども同士が結婚することで敵対していた家とも仲良くなるチャンスを得られましたし、庶民の場合は自分たちの仕事を手伝ってくれるのが子どもですから、身分に関係なく、結婚を急がせていたのです。
江戸時代になって、初婚年齢に変化が…
一方、江戸時代に入ると状況は変わります。政治は安定し、戦乱は日本から約250年間、消えてなくなります。そうすると不思議なことに、(文化や商業のより発達していた)西日本を中心に平均初婚年齢は男女ともにあがり20代中盤~後半にかけて結婚するのが普通…というような状態になっていくのですね。つまり、現代と状況はそこまでは変わらないのです。
農村出身者も農村で生涯を終えるのではなく、10代後半から20代中盤にかけて「行儀見習い」などと称し、都市部に奉公に行く選択肢が男女ともに生まれます。国内でワーキングホリデーに出かけるようなものですが、これが農村部の男女ともに普通の行為となっていきました。結婚は村に帰った後になり、平均初婚年齢は上昇していったのです(基本的に東北を除いた、全国的な傾向。東北の農村では十代で男女ともに結婚しました)。
武士はどんどん平均初婚年齢が上がっていってしまった?!
武士の家などの女性は江戸時代も以前とかわらず、十代半ばくらいで結婚をするのが普通でした。しかし、「外で男は働き、家は女が守る」というタテマエが特に強かった武士などでは、そのタテマエゆえに、男性の平均初婚年齢は皮肉にもどんどん上がっていってしまう傾向がありました(特に下級~中級程度の武士、現代でいう公務員の場合です)。
武士の給料は物価の上昇があったところで、江戸時代初期に幕府が出来て以来、ほぼ変わることはありませんでした。しかも武士の人口も時代と共に増加傾向にありましたが、人数が増加しても、それに見合うだけのポストは新設されにくいのですね。ですから「外で男は働き、家は女が守る」というタテマエに見合うだけの経済力を武士の子どもが持てるようになるのは、江戸時代前期で二十代中盤。江戸時代後期にはさらに進んで、なんと三十代中盤に…。
その年で、十代半ばのお嫁さんを、それもお見合い結婚でもらっても、コミュニケーションは上手くいきにくいでしょう。武士の離婚率は庶民よりも高かった…というのもうなずけるわけです。
作家・歴史エッセイスト。古今東西の恋愛史や芸術・文化全般などについての執筆活動を続けている。
最近の出版物としては、原案・監修を務める『ラ・マキユーズ ヴェルサイユの化粧師』(KADOKAWA)のコミック第1巻が発売中。『 本当は怖い世界史 』シリーズ最新刊の 『愛と欲望の世界史』(三笠書房)も好評発売中。
堀江宏樹さんTwitter⇒https://twitter.com/horiehiroki
撮影:竹内摩耶