当時の『房内』では、男性器の状態を「四至」、女性の高まる過程を「九気」で表していました。それでは、さっそくどんな風に表現されていたのか、見てみましょう。まず、以下の四つが『四至』になります。
男性器の状態を見る『四至』
「男性器が怒り出さないと、『和気』が充実しません。これは『怒は精の明』、すなわち精力の曙と言うべき、情意の発露です」
原文では「男性器が怒り出す」になっていますが、これは「男性が欲情する」という意味のようです。欲情をしなければ、男性器を挿入することはできません。
「怒り起っても、大きくならなければ『肌気』(きき)が十分ではありません。
『大は精の関』、すなわち精力の関所であり、男性器が怒張してつややかに光り、接触の用意が整って、進軍に映る状態です」
その男性にとって十分なサイズに勃起してはじめて、セックスの準備が整ったと言えます。
「大きくなっても、堅くならなければ、『骨気』が不完全です。 『堅は精の戸』と言って、挿入するには、男性器に骨のような芯がなくてはなりません」
昔から日本では、大きいより硬いほうがよいとされてきました。ですから女性を満足させるには、十分な硬さが求められます。
「堅くなっても、熱くならなければ、『神気』が整いません。
『熱は精の門』と言うのは、双方の性器が熱気を帯びて、クライマックスに達すると、性器の先端が門を開いて、津液を放つからです」
よいセックスをすると、互いの性器が熱く感じられます。熱気は、男女が共に高まりあっていることを示すものです。
「この和気、肌気、骨気、神気の四つが、順を追って充実するようにするためには、節度を守って、むやみやたらと精力を使わないことが肝心です」
やはり男性には、節度を守ったセックス(とオナニー)が大事なようです。
女性の高ぶりを見る『九気』
続いて女性の九気です。前回も女性の高ぶりを示すサインについてご紹介しましたが、観察する視点は色々あるのですね。
「女性が息を大きく吸って、唾を飲み込むのは『肺気』が充満した証拠です」
リラックスしていないと深い呼吸はできません。良いセックスのためには、まずはリラックスすることが大切なのです。
「音を立てて男性の口を吸うのは、『心気』が一杯になったのです」
愛しい相手とディープなキスをするのは、この時代でも一般的だったようです。
「しっかりと抱き締めて離さないのは、『脾気』の満ちた印です」
正常位の状態で、男性の腰に女性がしっかりと足を回す『だいしゅきホールド』、近頃はアダルトビデオでも流行しているようです。この当時からあったなんて驚きですね。
「膣が滑らかになるのは、『腎気』が出まわったのです」
高まってくると濡れてきますよね!濡れにくい方は、現代ならローションなどがありますので、上手に使いましょう。
「男性の体を甘噛みするのは、『骨気』があらわれたのです」
本気で噛みついたら大変ですが、甘噛みは愛しさの表現。カップルによっては、跡が残るくらいの甘噛みをしてもいいかもしれません。
「足を絡めるのは、『筋気』が満ちてきたのです」
前戯は手と口だけでするものではありません。足を絡めるだけでなく、普段は触れない部分の肌と肌を合わせたりも大事です。
「男性器を撫でて弄ぶのは、『血気』がめぐったからです」
やはり高まってきたら、男性器に触れたくなりますよね!ほとんどの男性は、男性器をもてあそばれるのが大好きです。ただし、いきなり男性器に触れるのではなく、体の末端から中心にかけて、ゆっくりと接近していきましょう。焦らすのが重要なポイントです。
「男性の乳を弄ぶのは、『肉気』が高まったからです」
乳首攻めは最近のトレンドのように感じますが、平安時代からあったのですね。千年前から同じことで喜ぶなんて、なんだか不思議な感じです。
「長い時間を一緒に過ごし、互いの体を愛撫し合い、クリトリスに触れたりすれば、九気はすべて充足します。九気が充足しないうちに無理に交わると、心身を害することになります」
挿入のみでなく、丁寧な前戯が大事! 千年前でも現在でも、男性も女性も、真理は変わりませんね。
■イラスト:フジワラアイ
1970年生まれ。1996年より、漫画原作者として活動。2009年、日刊誌連載「日本性史」にて、アダルトライターとして活動開始。
スマートフォンアプリ「セックスの日本史」、女性向けWEBサイト連載「蔦葛物語」「オンナとオトコの日本史/世界史」などの著作がある。