大名の姫君向けセックスマニュアル
これまで、江戸時代の庶民や武士のセックスライフを見てきましたが、その頂点に位置する、将軍や大名のセックスライフは、どんなものだったのでしょうか?
大名の姫君は処女のまま他家へと嫁ぐため、セックスマニュアルが存在していました。それが『閨の御慎みの事』(ねやのおんつつしみのこと)です。
紀伊大納言の嫁入りに際して家老が呈したものとも、薩摩島津家に代々伝えられてきたものとも言われています。
姫君からの誘惑は有り?無し?
夫婦間のセックスには肯定的であり、冒頭ではこのようにあります。
「御色気薄きは情なく、情なくば御夫婦の御仲睦まじからず、終には御家の滅亡とも相成り申候えば、御色気は充分なるを佳と致し申候」
しかし、このあと、次のように続きます。
「然れども、色気は乱れやすきもの、行は礼を失い候」
「殿御より先に迫り給うとも、自分より進んで情を商う歌妓に等しき猥りの御挙動遊ばされ間敷く候」
そう。女性の方から、セックスに積極的になってはいけない…という断り付きのようです。
姫君のセックスでの振る舞い
コトが済んでしまえば、男性はどうしても賢者モードになるもの。それは江戸時代の大名も変わらず、本書にはこのように記載があります。
「総ての殿御の用事にかかり給うときは種々に興をつくして、充分に仕度く思い給うが常なれども、用事が終われば見るも嫌になる、とぞ申すことにて候」
このため、続く対応のマニュアルとして、次のように書かれています。
「従って心に卑しまるるように相成候えば、色をやさしくしてこそ味あるものにて、恥かしき面色ある程情深くなり申候」
だからセックスの時は常に恥じらい、控えめに振る舞うようにせよ…とのことです。
具体的には次の通り。
「如何にこころよきに耐えず候までに成り給うとも、タワケたることを言い、又自分よりくちをすい、或はとり乱したる声など、出し給うべからず」
「佳境に入り給えば、殿御より先きか、又は同時に入り給うべし。殿先ず佳境に入り給えば、如何に精汁溢るるとも、こらえて殿御の止め給う時に止め給うべし」
つまり、「どんなに感じても、声を出したり、キスを迫ったりしてはならず、たとえあと少しでイキそうでも、男性が達したら、それ以上を求めてはならない。」ということ。
「セックスは楽しむものではなく、殿様に奉仕するもの。それがお家の繁栄のためである」
ということを意味する内容です。
江戸時代の姫君には、セックスを主体的に楽しむなどもってのほかだったようですね。
しかし性欲は、現代も江戸時代も変わらぬもの。姫君はどのように性欲を発散させていたのでしょうか。大奥の女中たちのオナニーについては、以前ご紹介しましたが、姫君のそれについては、残念ながら資料が残っていません。大奥女中のように適切な発散ができており、性欲に健やかでいられたことを願うばかりです。
1970年生まれ。1996年より、漫画原作者として活動。2009年、日刊誌連載「日本性史」にて、アダルトライターとして活動開始。
スマートフォンアプリ「セックスの日本史」、女性向けWEBサイト連載「蔦葛物語」「オンナとオトコの日本史/世界史」などの著作がある。