江戸庶民のセックスマニュアル
前回ご紹介した、大名家や将軍家に嫁入りする姫君のためのセックスマニュアル『閨の御慎みの事』は、タイトル通り、「とにかくセックスの時は慎み深く!」という内容。姫君にとっては残念なものでした。
しかし、庶民のためのセックスマニュアルである『男女仕附方』(だんじょのしつけかた)では打って変わって、男女が共にセックスを楽しむ方法が書かれています。
そこでは何と、冒頭にこのように書かれているのです。
「それ天地ひらけ始まりしより、男女の道ばかり古えも今もかわりなく、男は女を好みて、身上の破滅をも顧みねば、女は男をしたいて、百年の寿を物のかずともせず、互いに好きつ好かれつして、その間に子を儲け、孫を産みて、未来永劫人間の胤つきざるは、全く男女交媾あるゆえなり」
「セックスあっての人間!」と受取れるこの内容は、もはや『閨の御慎みの事』とは正反対です。
キスから始まる前戯の大切さ
『男女仕附方』では前戯から細かな指導が書かれています。
「さて、閨に入るとき、男の方より手を出しなば、直に枕をよせ、足をのせて、口と口を押つけ、舌をもいれ、長く出して男に吸わせ」
まずは手始めにディープキス!さらには自分から男性器に触れ、男性の手を女性器に導くよう指導は続きます。
「玉門へ男根をあてがうとき、ちょいと身をひねりて、突きはずさせるなど」
挿入直前の焦らしも一興…ということでしょう。セックスを楽しんでいる様子が伺える一節ですね。前戯をじっくり行う記述は女性にさぞ喜ばれたことでしょう。
なお具体的な前戯のやり方は、下記記事にもまとめてあります。 男女それぞれが喜ぶテクニックも紹介しているので、参考にしてみてください。
セックスを盛り上げる前戯テクニックについてはこちら
江戸庶民の挿入へのこだわり
挿入についても、強いこだわりが見られる詳細の記述があります。
「そのとき、また半分ほどいれて、チョコチョコチョコとこきざみに突くときは、女、奥までとどかぬを不足におもい、しきりに尻をすり付け、ハァハァと鼻をならすなり。此とき、ぐっと押込で子宮へとどかせ、鈴口にてぐるりぐるりと子宮をこすれば、女堪えかねて精汁をもらす事限りなし」
これは俗に「九浅一深」と言いますが、ポルチオ性感を刺激するテクニックが、江戸時代にはここまで開発されていたのです。
「女もこのときに至らば、足を空にして、男の脇章門のあたりを左右よりしめつけ、尻をもちあげて雁首をしめ、毛ぎわをじゃりじゃりというほどになせば、男の快よきことかぎりなし。かくして後、骨も砕くるばかりに抱きしめてドクドクと精をやるべし。その容体を見て、男もたまらず一息に精をやるなり」
体勢としては「だいしゅきホールド」のことです。また「同時にイク」のではなく、「ちょっとだけ早くイって、それを見せつけて男性をイかせる」のがコツと謳っています。
庶民はまさに、「性を謳歌」していたということでしょう。マニュアルの記述からうかがい知れる様子だけでも目に浮かぶようです。するとなお更、深窓に閉じ込められていた姫君たちのことを思うと、筆者は涙が止まりません。
日本には性を隠す風習が根強く残っていますが、江戸時代の姫君のように性を制限されることは薄れてきているのではないのでしょうか。
我々のご先祖様たちが残したマニュアルも参考にしながら、ラブタイムをより充実させていきたいものですね。
1970年生まれ。1996年より、漫画原作者として活動。2009年、日刊誌連載「日本性史」にて、アダルトライターとして活動開始。
スマートフォンアプリ「セックスの日本史」、女性向けWEBサイト連載「蔦葛物語」「オンナとオトコの日本史/世界史」などの著作がある。