みんなで作る!コミカル恋愛小説新連載!!
妄想女子の恋物語『妄カラ女子』≪シーズン3 役に立ちたい≫
月〜金 毎日16時更新!
■「妄カラ女子」…spotB・シーズン3〜役に立ちたい〜
コミカル恋愛小説『妄カラ女子』。
spotBは、恋に積極的だけどなぜかいつもカラ回りしてしまう「空回りお嬢様」の彩子が主人公。
恋愛模様を交互に月〜金まで毎日更新!
気になる今日の展開は…?
シーズン終了後にはアンケートを実施!
恋の行方を決めるのはアナタ!?ぜひご参加ください!
2015.02/09 up たくさん連れて ●榊川彩子
「私、次のライブには知り合いをたくさん連れていきます!」
「そうですか、うれしいな」
私の提案に、宗介さんの表情が明るくなりました。
「ぜひお待ちしています!」
家に帰るとすぐに瀬野を呼び出し、宗介さんの次のライブの日程に合わせて、榊川家の関係者やお手伝いさん、使用人といった人々をできるだけ集めるように指示しました。人が足りないようなら、臨時でバイトを雇ってもいいでしょう。
しかし、瀬野は眉ひとつ動かさずに意見してきました。
いわく……
「お嬢様、中村様がいくらライブに大勢の人を集めたいと願っていても、そんなやり方でライブに来てもらってはたして満足するでしょうか。中村様はアーティストです。アーティストなら、やはり自分の作品で勝負したいと思うのではないでしょうか」
「…………」
私は黙ってしまいました。言われてみれば確かにそうです。
「かわりに、お嬢様が小森様を誘って足しげく通ったり、榊川の関係者の皆様に丁寧に薦められたりするほうが、時間はかかりますがよほど喜ばれるのでは……」
「でも……!」
私は瀬野の言葉をさえぎりました。
「もう、知り合いをたくさん連れていくと約束してしまったの!」
私がそう言ったときの、宗介さんのうれしそうな表情が浮かびます。あのお顔を裏切ることは、私にはできない……。
「とにかくできるだけたくさん人を集めて! できるだけたくさんよ!」
私は口調を強めました。瀬野はいったん何かを考えるように黙りこみましたが、すぐに「承知いたしました」と深々と頭を下げました。
次のライブは路上での弾き語りでした。
当日、新宿駅西口駅前には黒山の人だかりができていました。
全員、宗介さんのライブの観客です。
私が指示した通り、瀬野は「できるだけたくさん」の榊川家関係者を動員させたのでした。
「宗介さん、知り合いをたくさん連れてきましたわ」
ギターを肩から提げたまま、なかなか歌い出さないでいる宗介さんに私は話しかけました。
その場にいたイケ店こと村川さんも、宗介さんのお友達も、そして宗介さんご自身も、呆然としていらっしゃいます。きっとこの人数に感動して下さったのでしょう。
そうこうしている間にも、人だかりはどんどん大きくなっていきます。道を行く人が新たに加わっているのです。
「何、この海外セレブみたいな格好の人たち……」
「路上ライブ? ひょっとしてすごい有名人がゲリラライブしてるとか?」
彼らは瀬野が連れてきた榊川の関係者たちを見て、そんなことを口にしていました。どうやら関係者のファッションやたたずまいが、見物客をさらに増やしているようです。
「たくさんって……まさかここまでとは……」
村川さんが口もとをひくひくさせています。
「できるのか、宗介」
増えていく人だかりに背中を押されながら、お友達が尋ねます。
「……やるよ」
宗介さんの目に強い光が宿りました。
「このぐらいでビビってるわけにはいかない」
2015.02/10 up 大人になれた ●榊川彩子
最後のほうに警察の出動などもありましたが、宗介さんのライブは大盛り上がりのうちに終了しました。
多くの方が宗介さんのお歌に耳を傾けてくれました。CDを買ったり、チラシを持って帰って下さった方もおりました。
「中村宗介って聞いたことないけど、いい曲歌うじゃん」
「今度、ちゃんとライブに行ってみようかな」
去っていく人々がそんな会話をしていたのを、私は耳にしました。
よかった。大勢の人が宗介さんの曲を知って下さった。そして、ライブにも来て下さろうとしている。
瀬野の言うことを受け入れていたら、この成功はあり得なかったでしょう。
瀬野がすべて正しいわけではないと、私は今日、わかりました。何だか少し大人になれたような気がしました。
数日後、私は宗介さんからメールでお食事に誘われました。メールアドレスは以前、前売りチケットの予約の際に使ったのでわかったそうです。
それはともかく、これは……これは「デート」ではないでしょうか!
私はさっそく準備を開始しました。
同年代の方、しかも男性と二人でお食事なんて初めてなので、何を着ていけばいいのかわかりませんが、男性はやはり華やかな女性のほうがお好きに違いありません。私はできるだけ高級なカクテルドレスを何着かと、どんな場所でも映えそうな鮮やかな色のコスメをいくつか用意し、その中から選ぶことにしました。
とはいえ、最後の最後で迷ってしまいました。
「華やか」にもいろんな種類がございますわ。宗介さんの好みもわかりませんし、どのドレスやコスメにするべきか決めかねました。
私は瀬野を呼び出しました。瀬野のいうことがすべてではないとはわかりましたが、こんなときにはやっぱり男性の意見を聞きたかったのです。
いつも通り5分で到着した瀬野は、部屋に広げたたくさんのドレスと、私のいつもとは違う派手めのお化粧を目にするなり、小さく溜息をつきました。
あっ、パッフェルベルのカノンが流れてきました。どうやら「執事のご指導タイム」が始まるようです……。
「お嬢様、初回のお食事で、これは少々やりすぎなのでは……」
「やりすぎって何よ。男性は華やかな女性のほうが好きでしょう?」
私は頬を膨らませました。
「失礼ですが、華やかと派手とは違います。確かに華やかな女性が好きな方はおりますが、どちらにしてもどんな場所に行くのかまだわからない以上は、ごくベーシックな服装とメイクのほうが無難かと。TPOに合わないお洒落は、どんなにそれ自体のセンスがよくてもやはり不格好なものでございます」
……言うに事欠いて不格好とは。ですが妙な説得力があるので言い返せません。
「加えて、初めてのお二人だけのお食事であれば、お相手は少しでもお嬢様の『素』の部分を知りたいと思われるはず。それは服装やメイクに関しても同じことです。すっぴんとまではいかないまでも、比較的ナチュラルなほうがよろしいでしょう。結論から言いますと……」
瀬野はすぅ、と息を吸いました。
「いつも通りのお嬢様のお洋服とメイクがいいのではないかと存じます」
2015.02/11 up カラまわり ●榊川彩子
宗介さんが連れていって下さったのは、イタリア料理のお店でした。
19世紀西欧風の内装でこじんまりとしていましたが、クラシック音楽の生演奏が流れる、雰囲気のいい場所でした。ホールとお庭もついています。
「店長から『彩子さんはきっと普通の人とは違うから、店選びを間違えるな』ってアドバイスされて……奮発しちゃいました」
宗介さんは少し緊張しているようでした。
「私、こういう小さくて親しみやすいお店は大好きです」
「え、ここが小さくて親しみやすい……」
宗介さんが固まります。あぁ、私、また何かおかしなことを言ってしまったのかしら……。
私は前回のことがありましたし、宗介さんもお酒は苦手でいらっしゃるとのことでしたので、私たちはガス入りのミネラルウォーターで乾杯しました。
前菜が運ばれてくると、宗介さんはぽつり、ぽつりと喋り始めました。
「この間はありがとうございます。あんなにたくさんの人たちの前で歌うのは初めてで……緊張したけど、いい経験になりました」
「あのぐらいのこと、何でもないんです!」
私は首を横に大きく振りました。頼りになるのだと思ってもらいたかったのです。
「よろしければ全員、次のライブにも呼びますわ」
「いいえ! いいんです!」
宗介さんが突然大きな声を出したので、私はびっくりしてしまいました。
「あっ、すいません……あの……感謝はしているんです。CDも売り切れるほどで、問い合わせもたくさん来て……。でも僕はやっぱり端くれといえどもアーティストだし、自分の音楽の力でお客さんを集めたいなって……」
宗介さんが言葉を選んで下さっているのがわかります。
――アーティストなら、やはり自分の作品で勝負したいと思うのではないでしょうか……
瀬野の言っていたことが、脳裏でよみがえりました。
あぁ、やっぱり瀬野のアドバイスは正しかったのだ。
気が遠くなるようでした。
私のそんな心情が伝わってしまったのでしょうか。宗介さんは慌てたように前のめりになりました。
「本当に、彩子さんの気持ちはとてもありがたかったんです。お礼をちゃんと言いたかったから、だからお食事にも誘ったし……よかったら今度はいつもお店に来ているお友達の方と、普通にライブを見にきて下さい」
途中から私は、宗介さんの言っていることがうまく聞こえなくなりました。
お礼を言いたかったから、食事に誘った――。
そう、これは単なるお礼だったのですね。「デート」なんて考えてしまった私は、やっぱりまたカラ回っていたようです。
それにしても、「普通」って何でしょうか。
どうしたら何が「普通」かわかるようになるのでしょうか。
瀬野にはまだまだ教わらなければならないことがあるみたいです。私はやっぱり、子供でした。
私が黙ってしまったせいか、宗介さんも何も話さなくなりました。
焦りました。何も会話がないなんて、気が合わないと思われたらどうしよう。私は必死で話題を探しました。何でもいいから喋りたかった。何でもいい……何でもいいから……!
気がつくと、私はとんでもないことを口にしていました。
「あ、あのっ、私、宗介さんのことが好きです……!」
「えっ?」
宗介さんが目を大きく見開いてこちらを見つめます。
「あ、……と、え、っと、それはファンとして……ということ……で、すよね?」
「あ、はい、いいえ、その……はい……」
こういうとき、何と答えるのが正しいのでしょうか。瀬野に教えてほしい。でも、ここにはいない。
結局私たちは、ギクシャクした空気を間に挟んだまま店を出ました。
「えと……よかったら、また今度食事に行きましょう」
宗介さんがそう言って下さったのでスマートフォンのメールアドレスを交換できたことだけが、その日の救いでした。
2015.02/12 up 執事として ●瀬野清彦
お嬢様と中村様がお二人でお食事をしている店に車を停め、お嬢様のご様子を確認しながら、私は考えておりました。
お嬢様が中村様のライブに榊川家の関係者や使用人たちを呼びたいとおっしゃられたとき、私はもっと強くお嬢様をお止めするべきだったのではないか……と。
いいえ、間違いなくそうするべきでございました。なのに私は、命令とはいえ従ってしまいました。
中村様のようなごく普通の男性があんなことをされたら、戸惑ってしまうのが当然です。そんな中で見事ライブを果たされた中村様はさすがだったというより他はありませんが、 それはさておき、あれが原因でお嬢様と距離を置きたいと考えるようになるとしても不思議ではないでしょう。
しかし……こうなってよかったと思う自分も、私の中のどこかにいます。
日本有数の資産を誇るお父様をお持ちのお嬢様と、中村様のような方がうまくやっていけるはずがありません。最初は惹かれ合ったとしても、すぐに価値観の違いのせいで関係に亀裂が入ることは目に見えております。
であれば、やはり早い段階であきらめることができて、よかったのかもしれません。
……「早い段階であきらめることができたから」、よかった?
本当に私はそう思っているのでしょうか。
榊川家の深窓を飛び出したお嬢様は、破天荒ではありますがこれまで以上にいきいきとしていらっしゃいます。そんなお嬢様に私は……今までにはなかった感情を抱き始めている気がしてなりません。
それについて深く考えるのは、正直怖ろしくもあります。それはもしかしたら、私がお父様を、孝造様を裏切ることにつながるかもしれませんから。
お嬢様がお店を出ていらっしゃったので、私は考えるのをやめにして後を追いました。
駅で中村様とお別れになったお嬢様は、すぐにスマートフォンを取り出しました。ほとんど同時に私のスマートフォンが鳴りました。
「瀬野、迎えに来て」
お嬢様の声は沈んでおりました。
車に乗りこんだお嬢様はずっと黙っていらっしゃいましたが、ご自宅の前で降りたときに初めて一言、こうおっしゃいました。
「やっぱり瀬野のいうことを聞いておくべきだったわ」
ドアを開けるために運転席から出てきた私は、横に立ちながら、何とお声をかけるべきか慎重に思考を巡らせました。雰囲気からしても、中村様とのお食事があまりうまくいかなかったのはわかります。そんなときだからこそ、間違いは許されません。
突然、お嬢様の目から涙がとめどなくこぼれ落ち始めました。
「お嬢様……」
私はほとんど条件反射で、胸ポケットからハンカチを取り出そうとしました。
その腕にお嬢様の手が伸びました。
お嬢様は私のスーツの端を掴んで、声を殺して泣きました。
――こんなときの男性の正しいあり方は、そっと肩を抱きしめることです。
「瀬野……これからも……いろいろ教えてちょうだい」
お嬢様の唇から、きれぎれに言葉が漏れました。
私は伸ばしかけた腕を止めました。
私は執事として正しくあることを選びました。いえ、最初から当たり前にそうあるべきだったのです。孝造様に大恩のある身で、私はいったい何を血迷っていたのでしょうか。
もう、余計なことを考えるのは終わりにいたしましょう。お嬢様を幸せにする男性をお嬢様とともに探し出す……それが私の使命なのです。
2015.02/13 up これはカラ回り? ●榊川彩子
数日後、私はいつものように未由センパイとフェブラリーキャットを訪れました。
行きたい気持ちも行きたくない気持ちもありましたが、宗介さんが「また今度食事に行きましょう」と言って下さった以上は嫌われていないと心を決めました。
店に入ってすぐに、私は呆気にとられました。
私や未由センパイと同じ年代と思われる女性が、宗介さんに妙になれなれしく話しかけていたのです。
気になって、未由センパイとの話もそっちのけになりました。私はひたすら二人の会話に耳を傾けました。村川さんでも宗介さんでもない方が注文を取りにきて下さいましたが、私はうわの空でした。
彼女はどうやらこの間のライブで偶然前を通りかかり、宗介さんの歌を聴いてファンになったようでした。
女性はとても積極的で、宗介さんに電話番号を渡して食事に誘っていました。今度ライブに行きます、なんて笑い声も聞こえてきます。妙に自然に宗介さんの腕や手に触れたりもします。村川さんも「宗介、またファンが増えたな」なんて二人を囃したてています。
(そんな、村川さんまで……)
まさか、まさか自分の行動がこんな結果になって返ってくるなんて……!
いいえ、でも宗介さんは食事に誘って下さった。たとえ社交の一種に過ぎないのだとしても、私のことが嫌いだったら、そんなふうに誘ってはくれないでしょう。
……でも、私は気づいてしまいました。私のことが嫌いではないことと、あの女性を好きになることは矛盾しない、と。
それに、そうおっしゃってくださったのはいいものの、肝心のご連絡はまだありません。
スマートフォンでのメールのやりとりは、お食事の後に一度お礼がてらしただけです。きっとカフェのお仕事やライブの準備でお忙しいのだと思っていましたが、このままただ待っているだけで本当にいいのでしょうか。
でも、こちらから無理にお誘いしたりして、嫌われてしまったらどうしよう……
でも、このままでは他の方に宗介さんを奪われてしまう……
でも、でも、でも……
胸の中にたくさんの「でも」が溢れて、不安が延々とループしていきます。これはカラ回りなのでしょうか。それとも……。
たまらなくなって、未由センパイにお断りして店を出ました。
スマートフォンを取り出し、私はアドバイスを求めて瀬野に電話をかけました。
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