
みんなで作る!コミカル恋愛小説新連載!!
妄想女子の恋物語『妄カラ女子』≪シーズン1 妄想大好き≫
月〜金 毎日16時更新!
■「妄カラ女子」…spotA・シーズン1〜妄想大好き〜
コミカル恋愛小説『妄カラ女子』。
spotAは、妄想大好きだけど現実には超オクテな「妄想女子」の未由が主人公。
恋愛模様を交互に月〜金まで毎日更新!
気になる今日の展開は…?
シーズン終了後にはアンケートを実施!
恋の行方を決めるのはアナタ!?ぜひご参加ください!
2015.01/05 up 寄らば妄想! ●小森未由

とつぜんだけど、わたしは妄想するのが大好き。
そこにイケメンがいれば、 私はいつでもどこでも妄想できる。横を通り過ぎていったイケメンサラリーマン、電車の中で目が合った大学生、スーパーで隣のレジの列に並ぶ渋いオジサマ――。
寄らば斬るっ!ならぬ、寄らば妄想!って勢いで生きてるっていえる。我ながらどうかしてる。
たとえば最近のお気に入りは、ここ、わたしのお気に入りのカフェ「フェブラリー・キャット」の イケメン店員さんとのあんなことやこんなこと。
彼を初めて見たときはあまりのカッコよさにびっくりしたなぁ。憧れの俳優のように綺麗めな感じで、思わずじーーーーーっと見つめてしまった。じーーーーーっと。
フェブラリー・キャットはわたしがバイトしている本屋の最寄り駅の近くにある。バイト帰りにいつも寄るんだけど、彼はこのカフェで週に何度か働いているんだ。若い子に指示を出したり、店員の中では偉いほうみたいだから、もしかしたら店長なのかもしれない。
彼、どんな女の子が好きなのかな。どんなエッチが好きなのかな……。 あぁ、私の頭の中で、今日もまた妄想劇場の幕が開いていく。いつもの甘〜いBGMとともに……。

「あぁぁぁんっ!」
カフェの倉庫にわたしのあえぎ声が響きわたる。
わたしは使っていないテーブルの上に押し倒されていた。彼の手が、わたしの腰のラインをなぞる。しばらく行き来した手は、やがてゆっくりとわたしのセーターをたくし上げていった。
「だめ……!」
わたしは体をこわばらせたが、 彼はほほえんだまま。
「いけませんか、お客様。ここには誰も入ってこられませんよ」
お店につながるドアには鍵がかかっている。さっき彼が掛けたのを、わたしもちゃんと見た。
わたしはさっき、いつもの席でミルクティーを飲んでいたとき、彼に声を掛けられたのだった。
「お客様、少々よろしいでしょうか」
彼は、倉庫に来てほしいと言った。ひょっとしたらわたし、気づかずに何か忘れものでもしていたのかな? そう思っていたら……こんなことになった。
「お客様、いつもいらっしゃいますね。僕のことをいつも見ていらっしゃいますよね」
否定できない。本当のことだから。
震えるわたしの唇に、彼はそっと自分の唇を重ねる。
「お客様……僕はもうあなたのことを一人のお客様としては見られません。 よろしければこれからは……その、僕の……恋人として……」
本当に? でもだからって、いきなりそんな、そんなところを愛撫されたら……わたし……あぁっ!

「お客様、お待たせいたしました」
「本物の」彼の声にわたしは現実に引き戻される。彼の顔を見て思わず真っ赤になってしまった。
「いつもの、お砂糖は入れないお味でよろしかったですよね?」
「……は……はひっ……」
そう、これが本当のわたし。
本当のわたしは、誘われるどころか 男の人とうまく喋れさえしない。今まで彼氏がいたことだってない。
それは全部、 「あのできごと」のせいだった。
小学校3年生のとき、初めて恋をした。相手の名前は今でも覚えている。北村修くん。騒がしくて、いつも真っ黒に日焼けしていて、国語が苦手で……。
話しかけることなんてできなかったから、いつもそっと見つめるだけだった。
普通に考えたら、そういう恋はいつの間にか溶けるように消えていくものだよね。
でも、わたしの場合はちがった。
まさか彼に、 あんなに恥ずかしい思いをさせられるなんて――。
あれは、暑い暑い夏の日の午後だった。
プールの授業が始まるとき、着替えて教室から出ていこうとするわたしを、北村くんが後ろから呼び止めた。
「こもりー」
「な、なに?」
わたしはどきどきしながら振り向く。
彼は満面の笑顔を浮かべていた。わたしがいつも惹かれていた、真夏の太陽よりもまぶしいあの笑顔。
その笑顔のまま、彼は床を指差した。
「おまえ、パンツ落としてるぞ」
……暑い暑い夏の日差しが、一瞬にして凍りついた気がした。
凍りついたのは日差しだけじゃなくて、わたしも、まわりの同級生たちもそうだった。
今にして考えれば、北村くんは年より多少幼いところがあった。
わたしのパンツは廊下にちょこんと置かれるように落ちていた。当時流行っていたアニメのものだ。今にして考えれば、わたしも年より多少幼いところがあった。
タオルで隠しながら着替えていたので、気づかないうちにパンツがタオルに引っ掛かって、それを引きずってきてしまったみたいだった。
女の子たちがキャーキャーと甲高い声で騒ぎだす。
男の子たちは「おー! 究極衛星ピリカのパンツだ!」とそのアニメの名前を口にしながら、わたしとパンツを交互に指差して笑った。
北村くんは……いちばん大きな声で、お腹を抱えて笑っていた。
まさか、まさか、まさか、まさか……好きな男の子に、 こんな目に遭わされるなんて……!
わたしは真っ赤になってパンツを拾うと、そのまま廊下を走っていった。
プールにはもちろん行かなかった。そりゃあ、ふつう行けないでしょ? かわりに旧校舎の屋上に隠れて、ずっと泣いていた。もしかしたらいじめられたのかもしれないとも思った。
こうして、 わたしの初恋は終わった。
あれから、わたしは現実の男の子とうまく話せない。男の子を男性と呼ぶような年になってさえ、そう。 トラウマというのはほんと、おそろしい。
現実の男の子と話すかわりに、わたしはマンガや小説を読むことに没頭した。トラウマが何か作用したのかもしれないけど、ちょっとエッチなやつが多かった。わたしの荒ぶる妄想力は、そうやって鍛えられていった。 。
わたしは現実なんかよりも 妄想で十分。 十分、楽しいんだ!
2015.01/07 up 唯一の親友 ●小森未由
「ふふっ、未由センパイ。またぼーっとしていらして。いつもの妄想ですの?」
イケメン店員が去っていってもなお固まったまま、ミルクティーのカップも持ち上げられずにいるわたしの前で、鈴の鳴るような可憐な笑い声がした。
一緒にお茶をしていた榊川彩子。高校時代、テニス部に所属していたときの後輩だ。
わたしたちは週に一度、このカフェで会っている。とくに目的があるわけではないけど、女の子同士のおしゃべりに理由や目的なんて、あんまり必要ないよね。
彩子はわたしの唯一といえる親友で、日本でも有数の総合商社の社長令嬢。つまり、わたしとは天と地ほどの差があるお嬢サマ。そんなわたしたちがなぜ親友なのかというと……なぜかウマが合ったとしかいえないんだけど。
年の離れた二人のお兄さんに対して圧倒的に世間知らずのまま育ってしまった彩子を心配して、お父さんは彩子を本来行くようなお嬢様高校ではなく、わたしと同じフツーの私立の進学校に入学させた。社会勉強ってことだそうだ。
超お金持ちの彩子はクラスでも部活でも感覚のちがいゆえに浮いていた。中にはあからさまに敬遠する人もいたけど、わたしはぜんぜん気にならなかった。たぶん、妄想のほうが大事で、現実の些細なことなんてべつにどーでもいいと思ってたから。
彩子はわたしが中学時代から誰にもないしょでこっそり書き溜めていた「妄想ノート」の中身を話せる唯一の相手だった。そういうノートがあること自体は言っていないけれど、内容についてはゆうに10冊分は聞かせている。内容というのは、さっき店員にした妄想みたいなコト。
彩子はどんな話も目をきらきらさせたり、顔を赤らめたり、きゃーきゃー騒いだりしながら聞いてくれた。
でもとにかく、わたしたちは変わり者同士、気が合ったんだ。
「未由センパイ……またあの店員さんの妄想をしていらっしゃったんでしょう?」
彩子はくすくす笑う。
「いっそのこと話しかけてしまえばいいのに」
「そんなことができたら、こんな妄想女子になってないよ」
「そうだ! 話しかけられないのでしたら、お店のすぐには気づかれない場所にお財布をさりげなく落として、それを届けてもらうという作戦はいかがでしょうか? センパイがお恥ずかしいようなら、よろしければ私が代わりに……」
彩子はずしりと重い、ゴールド&ブラックカードだらけの財布を取りだす。いや、それはヤバイ。マジでヤバイから。落としたらいろいろ社会問題が引き起こされそうな気がする。日本の闇が明るみに出てしまいそうな気がする。わたしは慌てて止めた。
彩子はたしかに少しズレている。ズレているけど、でも、彩子の行動力はうらやましい。
わたしがあの日以来、失ってしまったものだから……。
そのとき、店がざわつき始めた。向こうのほうのテーブルや椅子が除けられて、小さなスペースがつくられていく。あのイケメン店員も作業している。
「何が始まるんだろう」
わたしたちは顔を見合わせる。
店員控室のほうに、ギターを持った男性の影が見えた。
2015.01/08 up ミュージシャン ●中村宗介
僕はミュージシャン。でも、まだアマチュアだ。
音楽だけではとても食べていけないので、ここ、「フェブラリー・キャット」というカフェでバイトしている。
働き始めたのは1ヶ月前。友達に店長に紹介してもらったのがきっかけだった。
音源を聞かせながらアコギでライブをしていることを話すと、店長はバイトをしながら店で定期的にライブをしてみないかと提案してくれた。
まだ来てくれるお客さんの数は少ないけど、こうやって地道に活動をして、少しずつファンと呼べる人を増やしていければいいと思ってる。
その店長だけど、これがかなりのイケメンなんだ。男の僕から見てもカッコいいと思う。
店長目当てで来店する女性も少なくない。みんな、店長を見る目がうるうるしているし、僕がオーダーを取りに行くときと、店長が行くときでは、態度が変わる。緊張を解いてくれるのはうれしいことだけどね。
そこにいる二人連れの女性もそう。どちらもそこそこキレイな人たちなんだけど、話の内容がぶっ飛んでておもしろい。盗み聞きしようとしているわけじゃないから、断片的にしかわからないけど、「閉じこめられて〜」とか、「お父様の管理する油田が〜」とか、どこの世界の話? っていう。
まぁ、どんな人であったとしても、僕の音楽を好きになってもらえればいいな。
あっ、こうやって見ると、路上ライブやライブハウスでのライブに来てくれる人もいる。ちらしを一枚一枚手渡した甲斐があったかな。うれしいな。少しでもいい音楽を届けないとね。

どうやらセットができたみたいだ。店長はもちろん、セットをしてくれた人たちに後でちゃんとお礼を言わなきゃな。
アコギを持って、セットの中に入る。椅子に座って、ギターのチューニングをする。楽譜はいらない。もう全部覚えているから。
お客さんがじっとこっちを見ているのがわかる。何度ライブをやっても、この瞬間がいちばん緊張する。歌い始めてしまえば音楽に集中できるんだけど。
あの二人も、期待に満ちた目でこっちを見ている。
……って、あー、そんなにわかりやすくがっかりした顔しないでよ〜。イケメン想像してたんだろうなー。ごめんね〜……って謝ることなのかどうかわからないけど。
2015.01/09 up 妄想ノート ●小森未由
とつぜんライブが始まってびっくりしたけど、なかなかいい曲だったな。
前向きになれそうな恋愛の曲が多くて……でもわたしには関係ないけどね。
メロディも声もきれいだった。顔は正直今イチだったけど、声でなら十分妄想できそう。わたし、声優でもけっこうイケるしね〜、妄想。
あの声であの歌詞――「きみが生まれてきた奇跡を、僕の隣にいるときめきを、このキスで伝えたいよハッピーバースデイ」だったっけ――を耳もとで囁かれたりなんかしたら、なかなかイイかも。
あ、近づいてきた。何だろう? ちょっと緊張するけど……え、CDを売ってるんだ。へぇ、じゃあ1枚買おうかな。
「私にも1枚いただけますか?」
彩子も買ってる。彩子も気に入ったんだ。あ、彩子、それたぶんクレジットカード使えないから。
ライブのスペースが片づけられていく。イケメン店員も控室に入ったまま出てこないし、そろそろ時間も遅くなってきたし、わたしたちは解散することにした。
CDには次のライブの予定の書かれたコピー用紙が入っていた。
またあのカフェで聞けるかなと思ったけど、カフェでのライブは少し先みたい。生で聞きたい気持ちはあるけど、ライブハウスとか、路上ライブとか……んー、正直ちょっと面倒くさい。
なんて思ってたら、翌日、彩子からメールが届いた。
「昨日の弾き語り、よかったですね。私、もう一度聞きたいと思って、チケット取ったんです。初台の『クロックワーク・ムーン』っていうライブハウスでやるみたいです。2枚取ったんで、よかったら未由センパイもご一緒にいかがですか?」
さすが彩子、行動が早い。そして今度はべつにズレてない。
誘われてしまったら、まぁいいかなという気になって、わたしはライブに行くことにした。
*****
「クロックワーク・ムーン」は駅のすぐそばにある、小さなライブハウスだった。ライブハウスなんてところに入るのはわたしも彩子も初めてで、受付でお金を払うとき、ちょっとだけ足が震えた。
受付から中に入ると、ちらほらいる人の中に知っている顔がふたつあった。
ひとつは「フェブラリー・キャット」のイケメン店員。
もうひとつは、家の近くで何度か見かけたことのある男性。たぶん、近所に住んでいるんだと思う。いつもはラフな格好しか見たことがないけど、今日はさすがにナイロンのジャケットにジーンズっていう、ふつうの格好をしてた。何の仕事をしているのかわからないけど、髪がぼさぼさで、そのために顔だちはよくわからない。
こんなところで会うなんて、なんかイヤな予感がするな〜……なんてわたしの考えすぎかな。
*****
ライブが終わった。この間よりたくさん演奏してくれたけど、やっぱり少し切なくなるようないい曲が多かった。
わたしたちは駅に向かって歩いた。途中でお財布を出そうとして気づく。――いつも持ち歩いていている妄想ノートがない!
(ドリンクと引き替えるときに落とした? それとも受付でもらったチラシをカバンに入れたとき?)
すぐにメモできるように小さいノートにしたのがいけなかった。
……あんなものを誰かに見られたらこの世の終わりだ。アレをネタに脅されて、恥ずかしい格好をさせられて、いやらしいポーズを要求されて、あんな写真やこんな映像を撮られたりもするんじゃ……! あぁっ、妄想力がこんなときにさえ爆発する!
急いでライブハウスに戻る。事態がよくわかっていない彩子もとりあえず連れていった。
わたしはライブハウスの床を隅々まで見て回った。他のミュージシャンがまだライブをしていたので、暗くてもどかしかった。
彩子が不思議そうな顔をしているけど、ごめんね彩子、この際無視するよ。
ああ、どうしよう、あんなもの、誰かに見られたら……
![]() |
※クリックで投票してください。 |
