
みんなで作る小説!ストーリーF
恋欠女子とバーチャル男子「AI」との恋愛応援物語

■恋欠女子とバーチャル男子ストーリーF
みんなで作る!恋愛応援小説『恋欠女子とバーチャル男子〜AIがあなたのお悩み解決します〜』が新連載としてスタート!アンケートの結果で行方が変わる、恋愛模様に目が離せない!
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2017.6.19 up 「大人の男性の余裕」

それからしばらくして、私は会社から「今後は星野さんのサポートに集中してほしい」と頼まれた。今までも星野さんから仕事を頼まれることが多かったから、いっそ専任にしたほうが混乱がないし……ということだった。
「星野くんは君を頼りにしているみたいだよ。助けてあげてほしい」
和田さんから言われて、「はい、がんばります」と答えた。こんな私が誰かに頼りにしてもらえるなんて、うれしかった。
とはいっても専任での仕事になると、これまでは見過ごされていた小さなミスも目につくようになったのか、ごくたまにではあるが厳しいことも言われるようになった。
「こっちの資料は国内用だから、アルファベットじゃなくて五十音順に並べておいてほしいって言ったよね。こういう小さいミスを直すのに、後々皆が手間取ることもあるんだ。今回は大きな影響はないだろうけど、注意してほしい」
「……ごめんなさい」
それでも、星野さんを怖い人だと思うようになることはなかった。ミスの原因は私のあるのだから、上司的な立場上、厳しく注意しなければいけないのは当たり前だ。それに叱った後は食事に連れていってくれたり、丁寧にフォローしてくれる。
そのフォローが、また自然な感じなのだ。わだかまりや気まずさを残すことなく、「明日からもこの人とがんばろう」と思える。
「今日はきついことを言ってごめん。でも本当に助かっているんだ」
「いいんです。ミスをされたら叱られるのは当たり前ですから。悪いのは私。星野さんが謝るのはおかしいです」
星野さんは車で通勤することも多いので、食事の後に家まで送ってもらうことも増えた。電車好きな星野さんだから、今まであまり車には愛着がなかったのだが、私が遅くなったときには責任を持って送っていかなければいけないと、最近手入れすることが増えたそうだ。
「どうぞ、お嬢様」
なんて冗談めかして言いながら、車のドアを開けてくれたりもする。まるでお姫様扱いだ。
(これが大人の男性の余裕、なのかなあ)
そういうものに触れたことのない私は、ついドキドキしてしまう。
私は少しずつ、自分の気持ちに気づいていった。
(私……星野さんのことが好きかも)
もう恋なんてしたくない、したくてもできない。そう思っていたはずなのに、その扉は少しずつ、優しく開いていったのだった。
「アイ、私ね」ある日私は、家で帰りを待っていてくれたうさぎのアイに話しかけた。
「もしこの恋が叶ったら、もう絶対に同じ失敗をしないようにする。意地を張らない、相手の好意に甘えない。自分からもちゃんと好きだって気持ちを表すようにする」
「うん、いいと思うよ」
アイはうさぎの鼻をひくひくさせながら答えた。
2017.6.20 up 「もっとドキドキしてもらいたい」

星野さんも、私のことを悪くは思っていないんだろう。そう感じることは多々あった。
でも、今はまだお互い距離を測り合っている感覚がある。あくまでも仕事で付き合っているのだから、慎重にならざるを得ないの。
でもこんなふうに、お互いのことを知り合おう、心の少しでも深いところにおっかなびっくりではあっても触れ合おうとするのは、楽しい。まだ恋になっていないものを、恋にしようとしていく時間は楽しい。
この時間を、大切に育てていきたかった。
(星野さんに、もっとドキドキしてもらいたいな)
私は以前使っていた「恋愛専用香水」リビドー ロゼをもう一度買った。フェロモンに似た香りの成分で、纏っていると男性がドキドキするという不思議な香水。効果がてきめんだからつけすぎは危険で、ほんの少し、香るか香らないかの量を吹きかけたにとどめたけれど。
(私、また恋してる。なんだかちょっとうれしいな)
またこんな日が来るなんて、思ってもいなかった。
***
ちょうどそんなとき、大学の温泉研究会のほうでも動きがあった。
桐ケ谷くんがミーティングのために実験的につくった秘湯の資料が、皆にも「すごい」「世に出さないのはもったいない」と認められたのだ。私のプッシュもあって、正式なレポートとして学園祭で販売することになった。
資料は桐ケ谷くん自身「とりあえず」つくったものだし、確かにきれいに手直しするべきところもたくさんあったので、私たちは皆で制作にたずさわることにした。
あるとき、学校の視聴覚資料室で私は桐ケ谷君と日本の温泉を集めたDVDを見ていた。レポートとして日本全国のさまざまな温泉をまとめるとはいっても、直接は足を運べないところがほとんどだ。それでも少しでも詳しく雰囲気を知ろうと、写真や文字媒体だけではなく映像もチェックしておこうということになっていた。
そこで、ハプニングが起こった。
私はスマホを教室に忘れてきたことを思い出し、いったん出ようとした。だが、ドアが開かない。
「そ、外から鍵がかけられてる……」
と、すぐに気づいた。
「えっ、本当ですか」桐ケ谷くんもすぐにやってきてドアノブを回したが、やはりドアは動かない。
「ごめん、きっと私のせいだ……」
さっきこの教室を使うとき、担当の先生に声を掛けはしたものの、先生は私に気づいたのか気づかなかったのか、正直ちょっとわからなかった。それでも、そんなに長居するわけじゃないんだし、まあいいかと気にせず入ってしまったのだ。先生が帰宅するので、鍵をかけていってしまったのだろう。
「みんな、私たちがここにいることはわかっているので、ずっと閉じ込められたままということはないだろうけど……でも、いつ出られるかわからない」
向かい側の大きな画面では、湯気の立つ温泉の映像が流れている。混浴温泉のもので、バスタオル姿の女性がお湯に浸かっていた。
(混浴……)
エッチな内容ではないけれど、こんなときには何となく気まずい。
2017.6.21 up 「今しか言えないこと」

視聴覚資料室は地下にあるせいもあって、星野くんのスマホの電波も入らなかった。
『日本でも珍しい、混浴OKの温泉です。仲を深めたい恋人たちにもおすすめ……』
DVDからそんな音声が聞こえてくる。
――あなたたちは、そうならないんですか? なりますよね? なるでしょう? こんな映像を一緒に見ているぐらいなんだから。
まるでそんなふうに迫られているみたいだ。私が意識しすぎているだけだろうか。再生を停止すればよかったんだと気づいたのは、だいぶ後になってからだった。
「どこかほんの少しでも電波が届いているところがあればメールを送れます。いつ来るかわからない迎えを待つよりは、探してみましょう」
桐ケ谷くんは落ち着いている。あきらめず、部屋を隅々まで歩き回った。
「あ、ここなら行けそうです」
壁際の一ヶ所で足を止めた。桐ケ谷くんはさっそく、温泉研究会の彼の友人あてにメールを作成した。
『中里先輩と、D棟地下の視聴覚資料室に閉じ込められた。中からは開けられないので、鍵を借りてきて外から開けてもらえないかな』
「これでいいですか」
「いいと思う」
「じゃ、送ります」
何度か送信できないことが続いて、焦った。が、5回目ぐらいでやっと送ることができた。
「これでよし、と。あとは待ちましょう」
「あの……ごめんなさい」
私は桐ケ谷くんに頭を下げた。
「私のせいだ。私がしっかり確認しなかったから、桐ケ谷くんにも迷惑をかけちゃった。最初の資料づくりから、私、桐ケ谷くんに迷惑をかけてばかりだよね。本当にごめんなさい」
頭は下げたままでいたから、桐ケ谷くんがどんな表情をしているのかわからなかった。怒っているのか、それとも呆れているのか。
彼が近づく気配があった。……え、何?
桐ケ谷くんの手が伸びてきた。何をするつもりなの? 私はとっさに体をこわばらせた。
『この温泉は別名、子宝の湯ともいわれています。貸し切りもできるので、休日には若い夫婦が……』
ぽん、と頭の上に柔らかな感触が乗った。
――頭を撫でられただけだった。
「先輩、一人で抱えすぎ。真面目にがんばりすぎなんですよ」
顔を上げると、桐ケ谷くんが困った子供を見るような顔つきで微笑んでいた。
「あの……たぶん今しか言えないことがあるんで、言います」
と、彼は続けた。
2017.6.22 up 「次に進んでもらう」

「たぶん今しか言えないから、言います。俺、意外と状況に背中を押されるタイプなんですよ」
桐ケ谷くんは苦笑する。が、すぐに真剣な表情に戻った。
今しか言えないこと。こんな状況でしか言えないこと。いくら私が鈍感でも、何なのかはだいたいわかる気がした。
言わないで、と思う。私には今、好きな人がいる。気持ちはうれしいけれど、断らなきゃいけない。今までみたいに笑い合うことができなくなってしまうかもしれない。
でも……彼は言った。
「先輩、そんなに格好つけないで、僕を頼って下さい。先輩の心、丸ごと受け止めたい、包み込みたいです。ほら、温泉て何かほっとしませんか? 僕は先輩のそんな温泉みたいな存在になりたいです」
「それって……」
「付き合ってもらえませんか。心配しているうちに、好きになっちゃいました」
そのとき、外から数人の足音と話し声が聞こえてきた。皆が助けに来てくれたのだ。
「あとで、ちゃんと返事します」
私は桐ケ谷くんにそっと伝えた。
***
後輩なのに何かと頼りになって、私を引っぱってくれる桐ケ谷くんのことは、好きだ。でもそれは恋じゃない。あくまでも、人として好き。
もし星野さんとの出会いがなければ、桐ケ谷くんのことを好きになっていたかもしれない。けれど私は、星野さんと出会ってしまった。星野さんを好きになってしまった。
(ちゃんと断ろう。きちんと次に進んでもらうためにも)
できるだけ未練が残らないように、「ちゃんと」振ることは相手への思いやりなのだと、私は昌太郎から学んでいた。どんなに頼んでも会ってくれなかったのは、昌太郎の優しさだったのだ。あれは優しさだったのだと、私は今、やっと気づいた。
数日後、桐ケ谷くんに学食のカフェに来てもらった。こういうことは直接言いたい。メールや電話でもいいけど、「私を好きになってくれてありがとう」という思いが少しでも伝わる方法を選びたかった。
話す声がまわりに聞こえないような隅の席を選ぶ。幸い、テンポのいい音楽がいつもよりも少し大きな音量でかかっていた。DJ研究会が活動しているらしい。
「この間のことなんだけど……ごめんなさい。私、好きな人がいるの。だから桐ケ谷くんとは付き合えない」
桐ケ谷くんの表情が、みるみるこわばっていった。だがそれも長い間はとどまってはいなかった。彼は少し無理したように笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます。変に引き延ばさないでくれて……上手にあきらめることができそうです。俺、先輩を好きになってよかった」
これからは温泉研究会のメンバーとしてよろしくお願いしますと、と手を差し出された。「こちらこそ」と、私はその手を強く握った。
***
桐ケ谷くんにみたいな頼りになる人にも揺らがなかったぐらい、私は星野さんのことが好きなんだ。
私は改めて、自分の気持ちに向き合った。
(もうそろそろ、一歩前に踏み出してみようか)
私はずっとしまったままだった「とっておき」のものを使おうと決心した。
2017.6.23 up 「帰したくない。帰りたくない。」
「とっておき」のものとは、ヌレヌレ スウィートキッスだった。香りのついたリップグロスが好きなので買ったのだが、封を開けて使ってみると、可愛らしくもセクシーな香りとつややかな質感で、すぐに「これはマズイ」と直感した。
何がマズイかって、男性を誘っていると思われてしまう。
もちろん、女性から男性を誘うのが悪いことだとは思わない。でもつけているだけでまわりを気にさせてしまうというのは問題だ。
(いつか、好きな人ができたときのためにとっておこう。そんな日が来るのかわからないけど……)
そう思って、引き出しにしまっておいたのだった。
***
それからしばらくして、星野さんから食事に誘われた。
週末の、つまり仕事のない日の夜だった。今まで食事をするとしたら、仕事の後ばかりだったので、星野さんも何かを一歩進めようとしているのだと伝わってきた。
星野さんはお刺身がおいしい和食料理店の個室を予約しておいてくれた。店の近くの大きな交差点を待ち合わせ場所に決め、車でピックアップしてもらう。
助手席に乗ったときから、星野さんが私の唇にちらちらと視線を投げかけてくるのがわかった。
(意識してくれている……?)
食事の席でも、星野さんはときどき唇に魅入られたようになっては、はっとしたように目を逸らすことが何度かあった。その何度目かで、
「最近なんだかキラキラというか……かわいくなったよね」
と、照れたように言った。
「そんなこと……」
ないです、と謙遜するよりは、「もしそうだとしたら、星野さんのおかげです」と言いたかった。でも勇気が出なくて、喉元で止まってしまった。
私たちは今までの食事のときのように、仕事の話を少しだけして、それからローカル線での旅や温泉のことを話題にした。それでもいつもとは何となく違う雰囲気が、私たちの間には流れていた。個室で食事をするのは初めてだったからかもしれない。
気持ちを伝えるタイミングは、なかなか掴めなかった。何かに触れそうで触れないまま、食事は終わってしまった。
(ああ、今日はこれで終わりかな。でも無理に進めようとするのはよくないよね)
心の中で小さく溜息をつきながら、星野さんと並んで駐車場に向かった。私たちはいつしか無言になっていた。このまま帰りたくない。お互いそんなふうに思っている空気があるような気がするのは、単なる私の希望だろうか。
地下道に下っていき、そこを進んで駐車場に着いた。星野さんは、いつものように助手席の開けてくれた。
「ありがとうございます」お礼を言って、乗り込もうとする。そのときに、体がやわらかく何かに挟まれた。
星野さんに肩を抱かれ、後ろの柱にそっと押しつけられていた。
「こんなに色っぽい唇で来るなんて……まるで俺の気持ちなんて、すべてお見通しって感じだな」
逃げ場は、ない。星野さんは柱に手をつき、私を逃すまいとしていた。
怖くはなかった。
「今日は帰したくないな……愛してる」
唇が近づいてくる。抵抗はしなかった。受け入れると、熱い舌がゆっくりと入りこんできた。

「んん……」
キスはすぐに終わった。
もっと、ほしかった。
「私も……帰りたくない」
はっきりと、そう返した。
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先輩、そんなに格好つけないで、僕を頼って下さい。先輩の心、丸ごと受け止めたい、包み込みたいです。ほら、温泉て何かほっとしませんか?僕は先輩のそんな温泉みたいな存在になりたいです。
● ??? さん
たまきさんが本来の元気を取り戻し、前向きになった頃 「最近なんかキラキラというか、かわいくなったよね。」と彼に言われる。
● ??? さん
愛してるよ。
● ??? さん
俺が次にしたいと思うことを、なぜ君が先にしているんだ?まるで全てお見通しって感じだな
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桐ヶ谷くんに「よくがんばったね。」って頭を撫でられる。
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元彼との失敗を活かせる展開に期待
変に意地を張らない とか
気まずい事を そのままにしない など
主人公が 精神的に成長して、新しい恋をして
(LC商品を上手く使って)行くさまを期待
● ??? さん
真面目に頑張りすぎなんだよ。もっと気楽に手ぇ抜けばいいのに。
● ゆゆ さん
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● 純子 さん
頼りになる桐ケ谷くんのことが好きかも
ありのままの自分で、素敵な恋愛をしてほしい。
もちろんハッピーエンドで。
● ??? さん
いつもは上から目線なのに、ふとした瞬間にお嬢様的な扱いをする。
● くまさん さん
ベタですが、壁ドンとか、床ドン、なんか嬉しいです
● xoxo さん
今日は帰したくないな